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東京高等裁判所 昭和52年(ネ)1396号 判決 1978年9月21日

控訴人

大竹弥市

被控訴人

株式会社大判屋

右代表者

三浦左武郎

右訴訟代理人

高山俊吉

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

<前略>

第二、当事者の主張

一、請求原因

1 被控訴人は、昭和四七年四月七日控訴人より原判決添付の別紙物件目録に記載の相隣接する二筆の土地(以下本件土地という。)を代金九五〇万円で買受け、同日控訴人に対し、手付金二〇〇万円を支払つた。<以下省略>

理由

第一請求原因について

一要求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二そこで本件土地につき隠れた瑕疵があるか否かについて検討する。

1  まず本件土地と通路の関係についてみるに、<証拠>によれば、①本件契約の当時別紙図面表示の赤線の位置付近には、幅員約二メートル前後の道路があり、右道路は別紙図面のとおりその一方が県道と村道(同図面中「舗装された村道」と表示された道路)との分岐点付近に通じ、他方は本件土地付近に至つており、その形状は、若干の拡張ないし舗修を施すと自動車の通行も可能なものであつたこと、ところが後記のとおり右道路は、本件土地の隣地に居住する山本寅一の所有地内にあつて専ら同人方で使用する必要上開設されたもので、一般の通行に供されているものではなく、同人はこれを被控訴人に使用させ又は譲渡することを明確に拒否したこと、②別紙図面青線の位置付近には、公図上村道が存在するが、右道路は本件契約当時は殆んど通行の用に供されていた形跡がなく、道路として識別することすら困難な状況にあり、仮にこの位置に道路が存在するにしても、これを利用して本件土地から本道(別紙図面表示の「舗装された村道」)に至るまでには相当の距離があり、しかもその間には小川があるなどこれを拡張整備して本件土地の通路とするためには多額の費用を要すること、③本件土地は、別紙図面のとおりその一部が県道に接しているがこの部分は、高さ約一〇メートルの断崖をなしているため、この付近に道路を開設することは殆んど不可能であり、仮に可能であるとしても、これにも多額の費用を要することが認められ、この認定に反する証拠はない。

2  次に、<証拠>によれば、被控訴人は、会社従業員のための保養施設を建設するのに適した土地を取得したいとの意向から、不動産業小田春晴にその仲介を依頼し、一方控訴人は、資料館の建設資金を得るために不動産業関根耐に対し、本件土地の売却斡旋を委任し、本件土地が一二〇〇万円以上の価格で売却される場合には契約締結をも含む代理権を授与していたこと、小田は関根を通じて控訴人の意向を知り、これを被控訴人へ紹介したことから、昭和四七年三月下旬ないし同年四月初めころ、当時の被控訴人代表取締役保坂義信は、小田と共に関根の案内によつて現地を下見分したが、その際関根は、本件土地の通路は、前1の①に認定の道路である旨指示するとともに、右道路は村道であつて、これを整備すれば、自動車の通行も可能である旨説明し、保坂も右説明により右道路が村道であると信じ、その形状からみて自動車の通行が可能であることを確認し、当日もこの道路を利用して本件土地に出入りしたこと、右下見分の際関根と保坂の二人は本件土地一帯殊にその境界付近はほぼ全域にわたつて綿密に見分し、保坂がこれを写真に収めるなどしたが、関根は当時本件土地の通路はほかにないものと思つていたのでこれ以外には本件土地に通ずる道路についての説明はしておらず、他に本件土地の通路は見当らなかつたこと、右下見分に先立つて、被控訴人に対し、控訴人自身の案内が求められたが、控訴人は、かねて関根に対し、現地において本件土地に関し指示説明を与えておいたうえ、被控訴人が果して本件土地を買い受けるかどうかも明確ではないとして自ら案内するのを断り代りに関根に現地で指示説明をさせる旨返答し、同人を差し向けたものであること、売買代金は、控訴人側から当初一〇〇〇万円の呈示があつたが、折衝の結果九五〇万円で合意されたものであること、なお、控訴人は、関根に本件土地の売却斡旋を委任するに当り、本件土地がその立地条件から宅地に造成して分譲するのに好適であることなどを記載した「梅が丘分譲地造成計画書」なる宣伝用文書を関根に交付し、被控訴人は本件契約に先立つて関根を通じてその一部を入手していたが、右文書の中に本件土地と付近道路の位置関係を明らかにした図面があつてこれには本件土地が県道のほか村道(別紙図面の「舗装された村道」に該るもの)に接しているように記載されており、被控訴人らはこれら図面をも検討して下見分に臨み契約を締結したものであること、関根もかねて控訴人から現地に案内されて説明を受けた際に、別紙赤線の位置にある道路が村道であるとの説明を受けていたので、自らもそのように判断し、保坂に対し前認定のような説明をしたものであることが認められる。<中略>

3 ところで民法五七〇条にいう瑕疵とは、売買の目的物に存する欠陥をいうが、その存否は、一般的抽象的に定まるものではなく、売買契約の内容、当事者が意図した契約の目的、売買価格、目的物の特性、当該契約に関し、売主が目的物について指示又は保証した内容などを総合考慮し、当該具体的取引においてその物が保有すべき品質、性能を具備しているか否かを判断して決すべきものである。

本件についてこれをみるに、本件土地を被控訴人が前認定の目的に副つて利用するためには、前記の県道と本件土地の間に少くとも自動車一台の通行を可能とする程度の道路が必要であることはいうまでもないところ、本件土地に連る道路の状況は前1に認定のとおりで、結局多額の費用を投じてあらたに道路を開設するならば格別ただちに利用することのできる出入路は存在しておらずこの点はまさに売買の目的物とされた本件土地の瑕疵にあたるものというべく、しかも被控訴会社の当時の代表者であつた保坂が右の瑕疵の存在に気づかなかつたのは前認定のごとく売主たる控訴人の代理人であり、不動産業者(宅地建物取引主任者)である関根耐の前記の指示説明を信じたためであつて、一般常識として不動産業者の物件に関する説明の中には、契約成立を希うあまり時として物件の長所を過大に、その短所を過小に表現することがあり、これらをすべて真に受けてはならないことはいうまでもないが、宅地(本件土地の地目は山林であるが、被控訴人の本件土地買受の目的が宅地としての利用にあり、そのことを控訴人が承知していたことは前認定の経緯に照らし明らかである。)にとつて公道からの出入のための通路の有無は、そのような曖昧な説明を許さない重要な問題であり、従つて保坂が関根の右説明をそのまま信用して、本件土地に県道へ出入りするための通路があると信じた、すなわち前記の瑕疵に気づかなかつたことについて保坂に過失があつたということはできない。つまり右の瑕疵は民法五七〇条にいう隠れたる瑕疵に当るものといわなければならない。

三次に、被控訴人が本件土地を従業員のための保養施設の敷地として利用する目的で買い受けたものであることは、前認定のとおりであり、本件土地に前認定のような瑕疵があることに鑑みると、これにより被控訴人は右売買の目的を達することができないものというべきであつて、被控訴人は民法五七〇条、五六六条により、本件売買契約につき解除権を有する(本件土地は高さ一〇メートルの断崖をもつて直接県道に面しているから、本件土地を買受けた被控訴人が、あらたに県道に通ずる出入口を開設することは物理的に不可能といえないことはもちろんであるが、それには多大の費用を要することは前認定のとおりであり、このような場合においては、法は契約の目的を達することは事実上不可能であるとして買主に損害賠償請求権にとどまらず、契約解除権を与えるものであると解するのが相当である。)ところ、被控訴人がその主張のように控訴人に対し本件土地売買契約解除の意思表示をなし、控訴人に到達したことは当事者間に争いがない。

第二抗弁について

控訴人主張の抗弁(手付金放棄に関する主張)事実は、これを認めるに足りる証拠はない。

第三結論

以上のとおりで、本件土地売買契約は適法に解除されたものというべく、従つて控訴人は被控訴人に対し、右解除に伴う原状回復として受領ずみの手付金と同額の金二〇〇万円及びこれに対する本件訴状が控訴人に送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和四八年一月一九日より完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるところ、これと同旨に出た原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(石川義夫 高木積夫 清野寛甫)

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